2008年1月3日木曜日

伝説上の数学者

イスラエルには四年制の総合大学が合計6校ある。たった6校?と思うかもしれないが、そもそも国土が日本の四国程度で人口も四国の1.8倍程度であることを考えると、それだけあれば十分とも言えるのだろう。

そのうちの一つバー・イラン大学で、今週は研究集会が行われていた。私の分野とは多少関係している分野の集会であったので、一日ぐらいは顔出してみようと思い、例によってNadiaの車に乗せてもらい、バー・イラン大学へ。

この大学はテルアビブの近くにあり、私の住むBeer-Shevaからは、渋滞もあり結局2時間程掛かった。宗教色の強い大学らしいのだが、モダンな感じの結構きれいなキャンパスからはそのことは全く感じられなかった。

そして、集会の開かれている大部屋に入る。なにかもうイスラエルにいる関連分野の数学者はほとんど全員と知り合いになってしまった感で、「いつものメンバー」といった顔ぶれが並ぶ。そう、数学者の世界というのは、以外に思うかもしれないが「狭い世界」なのである。

そんな研究集会の空き時間中、Nadiaが見慣れぬ年配女性とヘブライ語で会話をしていた。そして、近くにいた私をその女性に紹介した。私と軽く握手をし、その女性の口から出てきた言葉は"I'm Piatetskii-Shapiro's wife."であった。

心の中で「マジ?」と叫ばずにはいられなかった。このPiatetskii-Shapiroとは私の分野ではもはや「神」に近いような人で、私にとってはほとんど神話の中の数学者とも言える人物である。そして、現在では重度のパーキンソン病に侵されており、ほとんど姿を見せることがない人物でもあるのだ。そのため、その姿を目にすることはほとんど無いのである。

そして、私と握手したこの女性こそがそんな「(私にとっては)伝説の中にいるような数学者」の妻であったのだ。さらにそれだけではなく、その女性のすぐ近くの席には紛れもなくPiatetskii-Shapiro本人が座っていたのだ。

私の受けた衝撃は「新人ボクサーがモハメド・アリに突然遭遇した」 とでもいったら多少は分かりやすくなるだろうか。

病状の方はかなり深刻のようで、パーキンソン病特有の症状なのであろうか、手を小刻みに震わせている以外は、体を動かすことはもちろん、話をすることもほとんどできない状態のようである。しいて言えば、人の話しかけに対しかろうじて反応しているのが分かる程度であった。それでも、人の話を理解することは出来るようで、体調が良い時などは、時折、研究集会などに顔を出すようにしているらしいのだ。そして、今日はたまたま、この集会に来ていたのである。

今日はそんな「伝説上の数学者」に会った日であった。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

なんとなくその感覚わかります。
私が受けていたクラスの教授が、コンピューターサイエンスの世界のノーベル賞と言われているチューリング賞をとったスティーブン クックの弟子だと聞いたときは

すごい~~~

と思いました。そして、クラスメート以外、誰もそのすごさをわかってくれず、悔しい思いをしました。ははは。